愛知県立芸術大学 豊田市藤沢アートハウス
2012年11月17・18・23・24・25日
TEXT:田中由紀子
2012年11月17・18・23・24・25日
TEXT:田中由紀子
会場風景 |
鉛筆やペンによる精緻なドローイングで知られる文谷有佳里と、色彩豊かな木版画を手がける松村かおりの二人展。まったく異なる作風の2人だが、線を主軸としている点で共通している。
私が会場を訪れた時にはすっかり日が落ちていたが、敷地内に入った瞬間、玄関のガラス戸から垣間見える内部の様子に違和感を覚えないではいられなかった。煌々と照らされた室内に、黒いなにかがまとまりついているかのように見えたからだ。
そう見えたのは、扉に黒い流麗な線が描かれていたからだった。中に入ると窓や扉のガラスのほとんどすべてが黒マジックによる線で埋め尽くされており、それらはまるで細胞のように増殖し、建物全体を覆い尽くそうとしているようだった。
文谷有佳里は会期中、ここに滞在してガラスや大型の紙に線を描いた。もし明るい時間に到着していたら、窓の外の風景に線が重なっていくことにより、外界が異化される瞬間に立ち会えたかもしれない。しかし今回は、黒い線と夕刻の闇が溶け合い、近づいて目を凝らしても全体が捉えがたく、これまで彼女の作品からは感じたことのない得体の知れなさを発見することができた。
一方、松村かおりも会場に滞在して、3枚の版木を彫っていた。木版画というと、下絵を用意しそれを版に写すというやり方が一般的ではあるが、彼女は下絵らしい下絵をほとんど描かずに、じかに彫刻刀で彫っていく。松村によると、彫るというよりむしろ絵を描いている感覚に近く、彫った線から次の線が派生し、だんだんと版が完成していくという。
下絵を描き、それを版に写し、版から紙に写すという制作過程を経ることにより、版画には作品とつくり手の間にペインティングやドローイングにはない距離感が生まれる。その距離感そのものが版を媒介とした作品の魅力でもあるが、彫刻刀で描かれた松村の線には、距離感の代わりに版画とは思えない躍動感や生命力が備わっていた。完成した版から1枚しか摺らないのも、紙に直接描かれた絵画と同等に考えているからだろう。
会場には2012年2月に行われたコンサート「オセロvol.2」でのパフォーマンスで、2人が共同制作したという17mに及ぶドローイングも展示されていた。2人の線が一枚の紙の所々で交わるさまを見るうちに、それぞれの線が影響し合いながらどう変化を遂げていくか、今後も注目したいと思った。