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2011年3月14日月曜日

川田英二展

ジルダールギャラリー/CONNECT(サテライト会場)
2011年3月5日~27日
TEXT:田中由紀子

名古屋市千種区のジルダールギャラリーと守山区の家具店CONNECTで開催中の川田英二展。ジルダールギャラリーでは、石や植物をモチーフに黒で刷り上げられた新作中心に展示されていたが、静謐な黒の濃淡の中に色みや深さが感じられ、ギャラリーの白い壁と呼応しながら緊張感のある空間をつくり出していた。

一方CONNECTでは、温かみのある木の家具がコーディネートされた店内に、平面と立体の旧作が並べられた。平面の多くは2005年に制作された作品で、それまで黒のみで制作していた川田が、同じ版に色のインクを詰めて刷ったものだ。これまで白い壁の空間で見る機会が多かっただけに、ベージュで刷られた作品が家具の木の色と調和し、緑色や黄緑色の作品がまるで観葉植物のように空間に溶け込んでいることに、あらためて驚かされた。

秀逸だったのは、一枚板のテーブルに置かれた石を型取りしたブロンズの立体。板の節の部分に配置されると、節から広がる木目と相まって、テーブルの上に小さな枯山水の庭が出現したかのようだった。これらの立体も以前に見たことがあるが、生活感のある空間に展示されることで、主張しすぎずに場所に寄り添うかのような新たな魅力を放っていた。

ところで、川田が作品名に使っている「Theoria」(テオリア)とは「じっと見る」という意味のギリシャ語で、哲学では永遠の真理や事物の本質を眺める認識活動を指す。石を型取りしたガラスやブロンズの作品は、版に起こしたイメージを紙に写し取るという仕事の立体化と理解していたものの、立体への展開がしっくりこない感もあった。今回「石の表面の質感を写し取りたかった。別の素材に置き換えることで、石の要素がそぎ落とされ、質感が際立つと考えた」という川田の言葉を聞いてはっとした。ベニヤ板に地塗り材でマチエールをつくったコラグラフという技法や、砕いたパステルによる植物のフロッタージュを経て、石の質感を写し取ろうと試みる川田の制作姿勢は、ただ眺めるのではなく手で触れるように見るという、まさにテオリアだったのだ。

写真:CONNECTでの展示風景