GALLERY
芽楽
2013年2月9日~24日
TEXT:田中由紀子
今展でも展示されていた《VLのいる風景ver.2.0》(2012年)を初めて見たのは、昨年のアートフェアだったが、今回あらためて「やられた!」と思った。近年、鉄腕アトムや鉄人28号、キングコングといった誰もが見覚えのあるキャラクターを、インターネットから拾い集めた花や宝石、熱帯魚の画像で覆い尽くした平面作品を手がけている岡川卓詩。彼がそれらに続くモチーフに初音ミクを選んだことに、確信犯的な試みを感じないではいられなかったからだ。それは、初音ミクがいまをときめく電脳アイドルキャラだからではなく、キャラクターとしての実体すらない、まさにアイコンそのものだからである。
なぜなら、初音ミクの実体はVOCALOID2という女性の歌声を合成するソフトウェアであり、このソフトウェア自体をバーチャルシンガ―に見立てたのが初音ミクなのだ(作品タイトルにあるVLはVOCALOID2の略と思われる)。そして初音ミクが歌っているという形でユーザーがインターネット上で楽曲を発表することにより、初音ミクはユーザーにより性格付けされる消費者生成メディアとして変化し続けている。
これまで岡川が扱ってきた鉄腕アトムや鉄人28号には、制作者により性格付けされメッセージを託されたキャラクターだが、初音ミクはそれすらでなく、消費者の願望や欲望そのものが視覚化されたものといえる。そんな初音ミクのシルエットを覆い尽くす花々は伊藤若冲によるものだが、もちろんインターネット上から採集したものだ。若冲といえば近年絶大な人気を博し、展覧会ともなれば行列ができることもあるが、そんな若冲に描かれた花々も、インターネットを介すればゴミ同然の江戸絵画のアイコンと化す。
一方、新作の《アイコンのある風景》(2013年)に描かれているのは、両手を広げて足を交差させて立つ、マイケル・ジャクソンのおなじみのシルエット。画面全体を埋め尽くす花や蝶に黒い影を落とすその姿は、同じ空間に並べられている《イコンのある風景ver.2.0》(2013年)の、磔刑にされるキリストのシルエットと驚くほど酷似している。そういえば、偶像を表わすイコンと物事が記号化されたアイコンは、語源を同じくする語である。その姿そのものがアイコンと化したマイケル・ジャクソンだが、同時にファンに崇拝され、いまもなお消費され続けている。偶像化、そして記号化されることの意味を、今展を見てあらためて考えさせられた。