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2009年3月15日日曜日

白水ロコ展―forest keepers―


ハートフィールドギャラリー 2009年3月10日~22日

Text: 田中由紀子

2年半前にハートフィールドギャラリーで見た白水ロコの作品の印象が、いまも鮮明に残っている。というのは、その等身大の女性像は美しい顔に優しげな微笑みを浮かべながらも、手には長い剣を持ち、おそらくはその剣で切り取ったであろう生首を足で踏みつけていたからだ。重心をずらすように体を少し傾けた姿は、東大寺の四天王像を彷彿させた。女性や動植物、昆虫をモチーフに、おとぎ話の世界から飛び出してきたかのような、色鮮やかで優美な木彫を発表してきた白水。しかしその作品には、優美さの裏側に攻撃性が潜んでいるように感じられ、違和感を覚えないではいられなかった。
今回展示された《蝉》を見た瞬間、そのときのことを思い出した。女性とセミを組み合わせた等身大の像の、両方の肩から腕に被せるように付けられた大きな羽は、縦長の盾のようでもある。気高さを湛えた顔には穏やかな表情を浮かべているものの、赤い衣装に包まれた体は西洋の鎧をまとっているようでもあり、百年戦争でオルレアン解放に貢献したジャンヌ・ダルクを想起させた。
あるいは、双頭の《孔雀》は色鮮やかな羽を大きく広げて、自身の美しさを誇示しているようだが、前傾気味の姿勢は見る者を威嚇しているようでもあり、迂闊にも触れようものなら、2つのくちばしで指を食いちぎられそうだ。戦闘態勢をとっているようにも見えるところが、《蝉》と共通していると言えなくもない。
「私たちを取りまく自然や森を見守っている精霊たちの魂がテーマ」という今展だが、見守るだけでは大切なものを守れない。それは、現代社会に生きる私たちにもいえることだ。家族や生活など守るべきもののためには、時として威嚇や防御が必要となってくる。森の自然に棲む精霊たちの姿は、先の見えない厳しい社会状況の中で、強く生き抜いていくすべを私たちに伝えているように思えた。

写真:白水ロコ《蝉》2008年