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2011年6月15日水曜日

設楽陸展「シュミレーテッドレアリズム」

ギャラリーM
2011年5月8日~ 6月12日
TEXT:田中由紀子

画面中央を黄色い柱がそびえ立ち、その周囲には人間の顔らしきものが浮遊している。彼らは、天井に開いた大きな穴の向こうから来たのだろうか。柱の左側に描かれた巨大な髑髏の目からは、大首絵の歌舞伎役者が身を乗り出して見得を切り、反対側には天狗が顔をゆがめて笑っている。戦闘機が飛び交い、大勢の兵士が整列する前で、この2人が天から落ちてきた人々の運命を決めているかのようだ。

設楽陸の絵画には、インターネットやゲームなどの仮想世界と、古代都市や戦争といった歴史的事象が混然一体となって登場する。この《断末シューター》(2011年)にも動画サイトでよく見かける再生マークが大きく描かれ、これがインターネットを介して見せられたイメージであることがわかる。マンガの吹き出しやメールの顔マーク、爆弾や戦闘機、猿人といった設楽おなじみのアイテムも満載だが、今展では浮世絵や河鍋暁斎などの江戸絵画から取材されたモチーフが目立つ。

壁画を思わせる大画面の《天翔る龍の閃き》でも、対峙するように画面の左右に描かれた不動明王と千手観音は、俵屋宗達《風神雷神図屏風》を彷彿させる。弘法大師像や大仏、何かに救いを求めるように差し出されたおびただしい数の人の手が描き込まれたさまは、末法思想が流行した平安末期の京の都だろうか。それらは中央の穴にすさまじい勢いで吸い込まれていくようにも、穴の奥から飛び出してきたようにも捉えられ、まちを縦横無尽に翔る竜と共に過去と未来を自由に行き来しているようである。

実体のない仮想世界が、私たちの日常にどんどん浸透している現代。リアルとバーチャルの境界があいまいになりつつあることに危機感を覚えないではいられないが、子供の頃からゲームやインターネットやケータイが身近な世代である設楽にとっては、現実の出来事も歴史的事象も虚構の物語も、それほど差がないものとして受け入れているのかもしれない。そして彼はそれらを変幻自在に組み合わせ、眼前の現実を超越した新たな世界をキャンバスの上に表出させようとしているように思えた。

写真:《天翔る龍の閃き》2011年
キャンバスにアクリル、2273×5454mm